「夜の調べ、だったかな」

綺麗な音だろ? 災厄と呼ばれる怪物の一種が、夜になるとひとつところに集まるその足音……足でいいのかな、まあいいや、その音がここらの地形に反射して反響して、弦楽器の音みたく聞こえるんだ、この季節は。それを雅に称した人間がいたのさ。きみの前にここに滞在していた旅人だよ。もう、3年ぐらい前のことになるかな。彼がこの音や類するものに喰われたのか、は、私にはわからない。それらしい荷物は見ていないよ。見つけていない荷物の方が多いかもしれないけれどね。相方も彼には苦労させられたはずだけれど、彼をずいぶん心配していたのはなぜだろうね、馬鹿だからかな。

しかし何だね、私を寿命以外が殺すとしたらその役は災厄のものなのだけれど、奴らがこんな音を鳴らすと思うと、ちょっとシャクだ。私は音楽の心得がなくてね、歌だって下手だし。食べ物と安全と、これにもうひとつだけ望めるのなら私は、音楽の才が欲しいよ。災厄が居なければ私たちは生まれなかったかもしれないのに、奴らは何でも持ってるんだ。ああそうか、だからか。奴らが、それも持って行ったのかもしれないね。……なんてね、そんな訳ないだろ?

2017年2月8日