「地図が上下逆さまじゃないか」

 そう私が指摘すると、彼女は「わたしがいま向いてる方を上にしてんだよばーかばーか」と地図をひねったり回したりし始めた。言うまでもないと思うが、彼女はきりもみ回転しているわけではない。
「だいたいさ、追っ手に見つからないルートをわたしたちは見つけたいわけだから、追っ手も使うかもしれない地図に頼るのが間違っているんだよ」
 それでも地形などから読み取れるものはあると思う。彼女から地図を奪り返し、目的地のあたりをつける。
「体力的に、彼を背負うのはそっち担当ね。先導するからついてきて」
 彼女はぶつぶつ言いながら出立の準備をする。彼の意識はまだ戻っていない。
 遠ざかれば遠ざかるほど、彼を救う手立ては無いように見えて、挙句の果てが、未知の山越えの強行だ。
 もしかすると逃走という目標が間違っていて、ならばこの逃避行という私の描いた地図は、上下が逆さま、どころではないのかもしれない。
 けれど、進んでも戻っても留まっても最初から何もしなくても、結果が同じなら。未知に望みを見出すために、動かずにはいられなかった。なんてひどい自分勝手なんだろう。これはきっと最初の、そして最後の。

2017年2月9日 初出

2019年1月17日 改稿