「うちの姉ちゃん、結婚するんだ」

「うちの姉ちゃん、結婚するんだ」
 同僚の男が世界の終わりのようなしょぼくれた顔をしていたので飲みに誘ったら、開口一番がこれだ。
「おめでとう、でいいのか」
「なんでだよ」
「酷い顔してる」
「そうか?」
 注文した酒が来たので、乾杯。男は一気にあおった。
「男の嫉妬は醜いぞ」
「あ? 違えよ、……いや、そうなのか?」
「知るか」
 この男が実姉に懸想をしていた、というのは以前聞いたことがある。いや聞いたというと語弊があるか、正確に書くと『無理矢理に聞き出した』。『喧伝するようなことではない』程度の隠し方しかしていなかったことだが、そういうプライベートに踏み込むような距離に近づくより前の話だ。
「旦那になる男と俺との違いがよくわからないんだよ」
「なんでお前じゃ駄目だったのかって?」
「そういうことなのかもな、いま酒を飲んでる理由は」
「まあそんなしみったれた眼の奴はごめんだってことじゃねえの」
と俺が言うと、男はグラスを置いて頭を抱えた。
「図星か」
「かもしれない。当時似たようなことを言われた」
「然様か。ま、飲め飲め」

『きみのその、私を見るときの、太陽に焼き潰されたような眼が、好きじゃないんだ』
『たとえ私が太陽なのだとしても、私は、真っ直ぐに見つめられたいんだよ』

2019年1月10日 初出

2019年1月17日 改稿