『生まれ変われるんだったら、俺は天使になりたい』
いつかそんな風に言っていた久馬の声を、逾夜は思い出していた。
『まあ、無理なんだけどね。神様だって、俺みたいな汚れた人間にそんな事言われたら困るだろ』
何を聞いてもはぐらかされるばかりで。
今日のような場がなければ、ボクはいつまでも、何も知らずにいたんだと思う。
……ひとの葬儀で、『死んでせいせいした』なんて言葉を聞くとは、思ってもいなかった。
それも、彼の一番近くにいたはずの、家族から。
どんな気持ちで彼は毎日を過ごしていたのか、想像してみて、諦めた。
ボクは彼のことを何も知らない。
久馬さんは、あるいは本当に天使になったのかもしれない。
だって突然に往ってしまった。咎無く死んだ。
そうだそうに違いない、と呟く。
そう思わなければ、これからの夜を越えていく自信が持てなかった。
end
2012年6月2日