大好きな人のそばにいて、それなのに僕は泣きそうだ。
今日みたいに真っ赤な夕焼けは本当に久しぶりなのに。
「やったね、明日も晴れるよ」
「そうですか、ところで先輩に言いたいことが」
「大丈夫、夕焼けがよく見えると次の日は晴れって決まってるからね!」
「どこの法律で決まってるんですか? そんなんじゃなくて先輩、僕ね、僕ね……」
「昔に習わなかった? しかし真っ赤だ、切なくなっちゃうよ。あの子にも見せたかったなあ……」
「先輩!」
「なあに怖い顔して」
「僕、あの、先輩に言わないといけないことが」
「うんそれで?」
「先輩に言わないといけないことがあるんですけど、僕、実は」
「正体が私の初恋のあの子、とか? そうでなければ手短にしてほしいな、感傷にひたりたい」
「自分がばかだってわかってるんなら僕の話聞いてくださいよ」
「じゃあわかんない」
「泣きますよ大声出して」
「ぜひそうしてちょうだい。……あ、ごめん、何の話だった? 聞くよ」
「いいよこのばか! どうせ僕が先輩を好きなだけですよ!」
「はあ。ちなみに私の性別メスなんだけど知ってた?」
「そんなことはどうでもいいんですよ!」
「こっちだって若気の至りなんかどうでもいいよ! それだけならまた感傷にひたってるけどいい?」
「よくないッスよ! 僕の命がかかってるんスから!」
「わかった、ひたっとく」
「正直いうと僕の心臓もう壊れそうなんですけど」
「私は大丈夫だからセーフセーフ」
「僕だよ! このばか! 僕はあなたが好きだって言ってるでしょおおお!」
「そんなこと言われたって私、好きな人いるし」
「誰ですか」
「昔ね……昔のねえ、私が……私だった、ええと……説明が難しいけど、私は私じゃなかったんだよ、その過去の私を今の私は好きなわけ」
「うわあナルシスト!」
「違うよ! きみのボキャブラリーを鑑みてもせめて多重人格とか言いようがあるでしょ」
「中二病!」
「私の話聞いてた?」
「よりによって先輩のような自分大好き人間を僕は好きになってしまったってところまで聞きました」
「片思い中なんだってば」
「自分対自分でエンドレスいちゃいちゃのどこが片思いなんですか?」
「まあ落ちつけよ」
「先輩なんかに言われたくないですよ!」
「だから、もうその過去の私はいないじゃんか」
「いまの先輩がいるから問題ないじゃないですか」
「もういない人のことが好きだったらそれは片思いでしょう?」
「はあ? その先輩は今も生きてるじゃないですか」
「あの子が死んだから私が生きてるんだよ」
「それはゲジゲジ脱皮でチョウチョに変態、的な意味でなく?」
「私はあの子を殺して生まれてきた」
「あのー」
「だから両思いにはなりようがないし、きみの思いにもこたえられない」
「かっこつけがいる!」
「振られたからって逃避しないように」
「それは僕のセリフですよ! 過去の自分は殺した、だあ?」
「君ね、私だって命かけた恋してるんだよ? ばかにしないでよこの女郎!」
「どこに命がかかってるんですか?」
「すきすぎて死にたい」
「ばーか!」
「よし死ぬ!」
「このばか僕を見てよ!」
「生きたってあの子はいないじゃないか! せめて夕焼けぐらい一人で見させて」
「僕が一緒に居ちゃいけませんか?」
「そんなのむなしいだけだよ……」
それきり先輩は目を閉じて開こうとしない。
僕はもう泣きそうだ。
今日みたいに真っ赤な夕焼けは本当に久しぶりなのに。
end
2010年1月17日