「好感度マイナス/学園パロ」

※注意事項
#伺か版お絵描き60分一本勝負に便乗 ・お題の通り学園パロです
・義弥さんと女王さましかいません


 距離感のない薄闇で、少女は立ち尽くし震えている。
 細長い銀の笛――フルートをかき抱いて、暗幕の向こうの光を、なかばにらむように見つめながら。

 ――呆れる。
 彼女は三年生であり、部長である。だから場数だって、オレより多く踏んでいるはずなのだ。なのに毎回、こうやって、立つ舞台の大小に関わらず、蒼白になって震える。世界にひとりきりにされたかのように。
 オレたちの前の順番の音楽は、もうしばらくは終わらない。だから、
「つくも部長」
「……なに、義弥くん」
「部長は、馬鹿、ですか」
 小声で茨を投げつける。
「莫迦って、なにが」
「部長が高音きちんと決めてくれないと、みんな困るんですよ」
「わかってる――これからするのは合奏。ひとりぼっちのはずがない。わかってるわ」
 ノータイムの反応。言外の意図は汲み取ってくれたらしい。けれど彼女は、まだ震えている。
「失敗はこわくない。聴衆もこわくない。私がこわいのは、よろこび」
「……はい?」
 意味が解らない。オレは部長の、こういうところが好きになれなかった。
「まばゆい視界、頭蓋の内と外の音が絡み合う瞬間、何もかもがほどけてばらばらになるような、あのよろこびが、こわいの」
 言っていることは、解らないでもない。だから、余計に。
「そういうの、杞憂って言うんですよ」
「そうかしら」
「後悔は事前に、心配は事後に、本来そういうものです」
「義弥くんの言うこと、時々わからないわ、私」
「気が合いますね」
 部長は肩をすくめてみせる。もう震えてはいなかった。しかし、それをしたいのはこちらである。
「大丈夫です。部長の音だけは、信頼に値しますよ」
「君のも、ね」
 さて、拍手も起こった。いよいよだ。位置につく。
 暗幕が上がる。

2014年10月12日

20150501追記:
Q. つくもって何?
A. 百から一を引いたら九十九ですね。